A:一角の雪男 ミルカ
イエティには、ごく稀に角を持つ子が生まれるらしい。そうした角付きは、生まれつき魔力が強く、長じると群れを束ねる王になるそうだ。
ここまでなら、笑って聞いていられる話だが、聖フィネア連隊の騎兵が、角付きイエティを目撃したそうでな。「ミルカ」と名付けられた、この角付きが成熟し、群れを掌握すれば、イエティの脅威は格段に増すだろう。だからこそ、リスキーモブに指定されたって訳だ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ミルカは遠吠えのように叫んだ。あたし達には分からないがその叫び声はその特徴である角の中で反響して特殊な音波を出す。叫び声に応じて、おのおの物陰から5匹のイエティが現れた。
「まだこの程度で良かったわね」
あたしは相方にそういうと苦笑いをした。相方も一瞬振り向いて皮肉っぽく笑った。
Aランク指定された「角付き」というイエティについてクラン・セントリオから説明を受けたのはつい先日の事だ。
もう何十年もその存在は確認されておらずモブハントの専門集団であるクラン・セントリオですらその詳細は把握されていなかったらしいのだが、聖フィネア連帯の騎兵が角付きのイエティを目撃したとの通報があり慌てて調べた所「角付き」について書かれた古い文献を見つけて大騒ぎになったようだ。
イエティにはごく稀に角を持つ個体が生まれるのだという。そうした「角付き」は先天的に魔力が強く、他の個体より能力が高く、知恵も働くらしい。ここで注意すべきは不敬に当たるので間違っても「ああ、グリダニアの3兄弟みたいなものか」と思ってはいけない。
角付きの角の内部には複雑な形の空洞があって、叫び声をその空洞を使って反響させることでイエティにしか受信できない音波のようなものを発する。その音波にはイエティを服従させる効果があり、そうすることで角付きは他のイエティを従え、自在に操る事ができるらしい。つまり群れを束ねる王になるということだ。文献には角付きが無数のイエティを指揮して幾つもの集落を襲い、広範囲にわたり大きな被害が出たという記録が書かれていた。国から一定の権限を与えられモンスターによるトラブルの管理を任されているクラン・セントリオの面々がが焦るのも無理はない。
「角を切り落としちゃえば普通のイエティってことよね」
あたしがそう言うとクラン・セントリオの担当は一瞬絶句したが、気を取り直したように言った。
「角が再生しない保証はないんだ。完全に討伐して欲しい」
そうして「ミルカ」と名付けられた角付きイエティを探し求めてあたしと相方は極寒のクルザス西部高地の雪原を4日ほど彷徨う事となったのだった。
物陰から現れた5匹のイエティはあたしと相方を四方から囲むように位置取りすると各個体が少しずつ時計回りに移動しながらじわじわその輪を狭めてきた。四方に分散されているため、範囲魔法は使えないし、かといって接近した敵に対する攻撃魔法を使うと自分もまきこまれる可能性がある。
「やりにくいなぁ‥」
イエティに魔法の概念は理解できないはずなので恐らくはミルカが指揮しているのだろう。背中合わせに立っている相方に背中をぶつけて合図をする。その合図の意味を理解した相方が目の前の一匹のイエティに突進した。イエティは拳で相方を叩き潰そうと腕をあげ、振り下ろす。相方は素早い動きでイエティの腹部を切りつけると後ろに飛び下がって拳を躱した。イエティは拳を地面に叩きつけると悔しそうに飛び上がった相方を追って顔を上げた、その瞬間相方の下をくぐる様に飛んできた火球がイエティの顔面を焼く。イエティはそのまま前のめりに倒れた。包囲の一辺が崩れた。
あたしと相方はそこから包囲の輪から駆け出した。振り返ると包囲の輪は崩れイエティが密集している。
期待通りの展開。あたしはすかさず走りながら詠唱を始めていた範囲魔法を立て続けに密集したイエティたちの中心目掛けて魔法を放ち、一瞬でミルカの下僕達は消し炭になった。こんなにも上手く行くとまでは思っていなかったが、伊達に変則的な戦闘で何度も命を危険に晒してきたわけじゃない。これには流石のミルカも思い知った事だろう。